第9話 越後味噌 ~米どころ新潟が育てた、米粒の見える赤味噌~
【第2章 日本海と山国の味噌】
第9話 越後味噌
~米どころ新潟が育てた、米粒の見える赤味噌~

佐渡島をあとにして、船は再び本土へ。
日本海の向こうに見えてきたのは、
新潟・越後。
前回は旅の途中で少し寄り道をして、
「味噌づくりに、なぜ大豆が欠かせないの?」
というお話をしました。
大豆は、味噌の旨味の土台。
では、その大豆と出会う麹は、どこからやってくるのでしょう。
今回の旅の主役は、
米。
新潟といえば、日本を代表する米どころです。
山々に積もる雪。
春の雪解け。
信濃川や阿賀野川などの大きな川。
そして、広い越後平野。
新潟の食文化は、昔から水と米と深く結びついてきました。農林水産省も、新潟を「水の恵みがもたらした、米どころの食文化」と紹介しています。
そんな米どころで育ってきた味噌が、
越後味噌です。
花ちゃん、味噌汁をのぞいて「あれ?」
越後の旅で味噌汁をいただいた花ちゃん。
お椀をのぞき込んで、
「あれ?」
何かに気づきました。
「味噌汁に、お米みたいな粒が浮いてる!」
そう。
ここから今回の「なぜ?」が始まります。
なぜ越後味噌には、米麹の粒が見えるのでしょう?

米どころに生まれた「米の見える味噌」
越後味噌は、
米麹・大豆・塩
からつくられる米味噌です。
ここまでの旅でも、
仙台味噌。
会津味噌。
佐渡味噌。
さまざまな米味噌に出会ってきました。
では、越後味噌にはどんな特徴があるのでしょう。
その代表的なものが、
「浮き麹」
です。
農林水産省は越後味噌について、
味噌汁にしたときに麹粒が浮く「浮き麹」が特徴で、麹粒を残すために精白した丸米を使う
と紹介しています。
味噌汁の中に米粒のようなものが見える。
普通なら、
「まだ粒が残っている」
と思うかもしれません。
でも越後味噌では、
その粒こそが個性。
なのです。
「浮き麹」って何だろう?
ここは麹屋として、少し詳しく見てみましょう。
米麹は、
米を蒸し、
そこに麹菌を繁殖させてつくります。
出来上がった米麹を大豆と塩に合わせ、
発酵・熟成させる。
つまり味噌の中に入っている米は、
ただのお米ではありません。
麹菌が育った米。
それが米麹です。
味噌を仕上げる方法によっては、原料の粒を細かくして、なめらかに仕上げるものもあります。
ところが越後味噌では、
米麹の粒を残す。
味噌汁にすると、その粒がふわりと浮かびます。
だから、
「浮き麹」
と呼ばれるのです。
なぜ「丸米」を使うの?
ここが今回、とても面白いところです。
越後味噌では、
精白した丸米
を使うことが代表的な特徴とされています。
なぜでしょう。
理由は、
麹の粒を残すため。
せっかくきれいな米麹をつくっても、米そのものが細かく砕けていれば、熟成した味噌の中に美しい麹粒を残すことは難しくなります。
つまり越後味噌にとって米は、
単に、
「麹をつくるためのでんぷん質原料」
ではありません。
米を蒸す。
麹菌を育てる。
米麹になる。
大豆と一緒に熟成する。
そして最後には、
米麹の姿まで味噌の個性として残す。
ここに、越後味噌のおもしろさがあります。
なぜ新潟で、こんな味噌が生まれたのだろう?
ここで少し、
新潟という土地を見てみましょう。
新潟県には、山岳地帯を源流とする信濃川や阿賀野川などの大きな水系があり、その川が運んだ土砂によって広大な越後平野が形成されました。
県土の約70%が特別豪雪地帯に指定される雪国でもあります。
一方、夏には日照時間が長くなる地域もあり、豊かな水と平野を生かして米づくりが発展してきました。
新潟では、
米を炊いて食べる。
餅にする。
酒をつくる。
米菓をつくる。
そして、
米から麹をつくる。
米は単なる主食ではなく、
発酵文化の原料
でもあったのです。
越後味噌も、そんな米文化の延長線上にある味噌として見ると、とてもよく分かります。
越後の米文化は、ずっと昔から続いていた
新潟県の資料によれば、現在の蒲原や頸城の沖積平野では、弥生時代に稲作が始まったとされています。
その後、農地の開発が進み、越後・佐渡の物資を運ぶための道や港も整えられていきました。
もちろん、
「米どころだったから、そのまま現在の越後味噌が生まれた」
と単純に結びつけることはできません。
しかし、
長い米づくりの歴史があり、
米を加工する知恵があり、
米から麹をつくる文化がある。
そうした土地の暮らしの中から、
米麹を生かした味噌文化が育ってきた。
そう考えると、
越後味噌の「浮き麹」も、
単なる製造上の特徴ではなく、
米どころの文化が見える味噌
に思えてきます。
❄️ 雪国の時間も、味噌を育てる

これまでの旅では、
津軽。
仙台。
会津。
佐渡。
雪国のさまざまな味噌を見てきました。
新潟もまた、日本を代表する雪国です。
ただし、ここで気をつけたいことがあります。
「寒い地方だから赤い味噌になった」
と単純に決めつけることはできません。
味噌の色には、
大豆の処理。
麹の量。
塩分。
熟成温度。
熟成期間。
さまざまな条件が関係します。
伝統的な越後味噌は、
赤色系の辛口米味噌
として知られてきました。
そこに米麹の粒が見える。
赤褐色の味噌の中に、
白っぽい米麹が残る。
その姿には、
大豆と米、二つの原料が見える。
私はそこに、とても越後味噌らしい美しさを感じます。
「米+味噌」が一つになった郷土料理
越後を訪ねたなら、
ぜひ紹介したい料理があります。
けんさん焼き。

ご飯をおにぎりにして、
しょうが味噌や甘味噌などを塗り、
こんがり焼いた新潟の郷土料理です。
「けんさ焼き」「けんしん焼き」などとも呼ばれます。
上杉謙信が戦時に食べたという由来も伝えられていますが、これはあくまで伝承として紹介されているものです。
かつては正月や年始の酒宴の後の夜食などにも食べられ、現在も家庭でつくられています。
ここでも、
米+味噌。
です。
米を炊いて、
おにぎりにする。
その米からつくった米麹を使う味噌を、
おにぎりに塗って焼く。
花ちゃん、ちょっと混乱します
「待って!」
「おにぎりも、お米。」
「味噌の麹も、お米。」
「ということは……」
「お米に、お米からつくった味噌を塗って食べるの?」
そういうことですね(笑)。
でも、
そこが新潟の食文化のおもしろいところです。
米は、
ご飯になる。
餅になる。
おこわになる。
酒になる。
米菓になる。
そして、
麹になる。
一粒の米から、
たくさんの食文化が枝分かれしていく。
農林水産省の新潟県の食文化紹介でも、餅、おやき、おこわなど、米を使った多彩な食文化が伝えられています。
麹屋から見た「浮き麹」
ここからは、
麹屋としての私の感想です。
味噌汁のお椀に、
米麹の粒が浮いている。
私はその姿を見ると、
ちょっと嬉しくなります。
なぜなら、
「ここに麹がいるよ。」
と、味噌が教えてくれているように見えるからです。
普段、味噌汁を飲んでいても、
「この味噌には麹が入っている」
と意識することは、あまりないかもしれません。
でも越後味噌では、
米麹が目に見える。
「味噌って大豆だけじゃないんだ。」
「お米からつくった麹が入っているんだ。」
それが、お椀の中から伝わってきます。
だから私は、
越後味噌をこんなふうに表現したいと思います。
「越後味噌は、麹が見える味噌。」
大豆の旅から、米の旅へ
前回の「ちょっと寄り道」では、
大豆についてお話ししました。
そこで見つけた言葉が、
「大豆は、味噌の旨味の土台。」
でした。
大豆のたんぱく質に、
麹の酵素が働き、
旨味が育っていく。
では、その麹はどこから来るのか。
越後味噌では、
米です。
田んぼで米を育てる。
米を蒸す。
麹菌を育てる。
米麹になる。
大豆と塩に合わせる。
時間をかけて熟成する。
そして、
味噌になる。
全国の味噌を旅しているうちに、
味噌の材料一つひとつの物語が、
少しずつつながってきました。
全国味噌マップ No.08
越後味噌
地域 新潟県
種類 米味噌
麹 米麹
色 伝統的には赤色系
味 伝統的には辛口系
特徴 味噌汁にしたとき米麹の粒が浮く「浮き麹」
米 麹粒を残すため、精白した丸米を使うのが代表的
土地 越後平野・豊かな河川・豪雪地域を含む米どころ
食文化 けんさん焼きなど
キーワード 米・水・雪・米麹・丸米・浮き麹・赤味噌
※新潟県内でも上越・中越・下越・佐渡など地域ごとに歴史や風土が異なり、味噌にも地域性があります。また現在の商品も多様です。「越後みそ」は2020年に地域団体商標として登録されています。
麹屋がおすすめする「越後味噌」は、もう少し待ちます
いつもの全国味噌シリーズなら、
ここで、
「麹屋がおすすめする家庭向け仕込み配合」
をご紹介するところです。
でも今回は、
少し待ちたいと思います。
越後味噌の大きな特徴は、
浮き麹。
そして、
精白した丸米からつくる米麹。
ここには、
麹歩合だけでは語れない、
「米をどう選ぶのか」
「どうやって米粒をきれいに残した麹をつくるのか」
という、
麹屋として非常に面白いテーマ
があります。
せっかく全国味噌マップをアップデートするのですから、
昔ながらの越後味噌の配合や製法をもう少し調べてから、
鈴木こうじ店版・越後味噌
を考えてみたいと思います。
急いで数字を決めるより、
その土地の味噌をきちんと知ってから仕込む。
これも今回の旅の楽しみ方です。
花ちゃん、お椀をもう一度のぞく

旅の終わり。
花ちゃんが、
もう一度味噌汁をのぞいています。
最初は、
「なんでお米が浮いているの?」
と思った白い粒。
でも今は、
少し違って見えます。
田んぼで育った米。
蒸された米。
麹菌と出会った米。
米麹となり、
大豆と一緒に味噌桶の中で過ごした米。
そして最後に、
味噌汁のお椀へ。
花ちゃんが言いました。
「この一粒にも、新潟の田んぼがつながっているんだね。」
そう。
今回の旅で見つけた言葉は、
「米どころの味噌には、米の姿まで残っていた。」
そしてもう一つ。
「越後味噌は、麹が見える味噌。」
旅は、さらに日本海を西へ
越後をあとにして、
次は日本海沿いをさらに西へ向かいます。
向かうのは、
富山・越中。
同じ日本海側。
同じ米どころ。
同じ米味噌。
ところが、
味噌を調べてみると、
また少し違った表情が見えてきます。
【第2章 日本海と山国の味噌】
第10話 越中味噌
~北陸の米どころが育てた、麹の香る味噌~
同じ米と大豆と塩なのに、
なぜ味噌は違うのでしょう。
旅は、
富山へ続きます。
日本の味噌を、もう一度旅してみよう。
鈴木こうじ店
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