第7話 会津味噌 ~雪深い盆地が育てた、長期熟成の赤味噌~

【第1章 北国の味噌】

第7話 会津味噌

~雪深い盆地が育てた、長期熟成の赤味噌~

北海道から始まった、北国の味噌の旅。

津軽、南部、秋田、仙台と南へ進み、今回やってきたのは――

福島県・会津地方です。

周囲を山々に囲まれた会津盆地。

冬になれば雪が降り、厳しい寒さに包まれます。

ところが夏になると、盆地ならではの暑さがやってくる。

寒い冬と、暑い夏。

そんな大きな季節の変化の中で、じっくりと育てられてきた味噌があります。

それが、

「会津味噌」

です。

赤く、香り高く、しっかりとした旨味を持つ米味噌。

福島県は会津みそについて、江戸時代前半から若松城下を中心に醸造業が盛んとなり、300年以上続いてきた米麹仕込みの赤味噌を中心とする文化として紹介しています。

今回の旅の「なぜ?」は――

なぜ会津では、じっくり熟成させる赤味噌が育ったのでしょう?

その答えを探しながら、雪国・会津を旅してみましょう。


花ちゃんの「なぜ?」

雪の積もった鶴ヶ城を見上げながら、花ちゃんが聞きました。

「会津味噌も赤いんだね。

津軽味噌や仙台味噌と似ているの?」

確かに、どれも赤系の米味噌です。

でも、ここまで味噌を旅してきた私たちは、もう知っています。

「赤い味噌だから、全部同じ」ではありません。

土地が違う。

気候が違う。

原料や配合が違う。

そして、そこで暮らしてきた人々の生活が違う。

「じゃあ会津の赤い味噌にも、会津だけの理由があるんだ!」

そう。

今回は、その理由を探していきます。


️ 会津って、どんな土地?

会津地方は福島県の西部。

周囲を山々に囲まれた内陸地域です。

農林水産省は会津地方について、冬は積雪が多く気温が低い一方、盆地では夏に蒸し暑くなるという気候を紹介しています。

ここが、会津味噌を考える最初のポイントです。

「雪国だから一年中寒い」

というわけではありません。

冬は寒い。

春になると暖かくなる。

夏は暑い。

そして秋になると、また涼しくなる。

味噌は、この大きな季節の変化の中で熟成していきます。


味噌は、四季を旅する

ここは麹屋として、とても興味深いところです。

たとえば冬に味噌を仕込んだとしましょう。

気温の低い時期から始まり、

春を迎え、

やがて暑い夏を越え、

そして秋へ。

味噌の中ではその間も、麹由来の酵素や微生物の働きなどによって、大豆や米の成分が少しずつ変化していきます。

昔の味噌蔵には、現在のような精密な温度管理設備はありません。

だからこそ、

味噌は、その土地の四季そのものを経験しながら育っていった。

そう考えると、味噌桶の見え方まで少し変わってきませんか。

味噌は桶の中で止まっているのではなく、

ゆっくり季節を旅している。

私はそんなふうに感じます。


会津味噌には300年以上の歴史がある

では、会津で味噌屋が登場したのは、いつ頃なのでしょう。

調べてみると、江戸時代の記録へたどり着きます。

会津味噌協同組合が紹介する史料では、1685年(貞享2年)の記録に城内での味噌・醤油づくりをうかがわせる記述があり、城下にも味噌屋が存在したことを示す資料が残されています。福島県も、会津みそには300年以上の歴史があると紹介しています。

もともと味噌は、それぞれの家庭で仕込む保存食でした。

それが城下町の発展とともに、

家庭で仕込む味噌

 ↓

城下町で作られる味噌

 ↓

「味噌屋」という商い

へと発展していったのです。


城下町が、味噌を育てた

会津若松は、長い歴史を持つ城下町です。

葦名氏、伊達政宗、蒲生氏郷、上杉景勝、そして江戸時代には保科正之――。

時代とともに領主が変わりながら、城下町や産業が形づくられていきました。蒲生氏郷による城下町整備などについては、会津若松観光ナビでも紹介されています。

ここで前回の仙台味噌とつながります。

仙台では、

伊達政宗と御塩噌蔵。

そして会津では、

城下町の発展とともに、家庭の味噌が「味噌屋」の味噌へ。

同じ東北の城下町でも、味噌の物語は少しずつ違います。

だから味噌の旅は面白いのです。


江戸時代には「評判の味噌屋」があった

さらに時代を進めてみましょう。

嘉永5年(1852年)。

当時の若松城下には、「若松禄高名五副対」という、町の商売や名物などを記した番付のような資料が残されています。

そこには、

味噌屋5軒、醤油屋5軒

が記録されています。

これは、とても面白い記録です。

単に、

「各家庭で味噌を仕込んでいました」

という段階ではありません。

江戸時代後期の城下町には、

「あそこの味噌屋の味がいい」

「うちはこの味噌屋から買おう」

そんなふうに、店を選んで味噌を買う文化が育っていたことを想像させます。

保存食だった味噌が、

商品となり、

商いとなり、

やがて、

「会津の味」になっていった。


なぜ会津味噌は赤いのでしょう?

会津味噌は、伝統的には赤色系の米味噌として知られています。

福島県も、会津みそを盆地の厳しい気象条件の中で育まれた「香り高い赤みそ」と紹介しています。

では、なぜ赤くなるのでしょう。

ここで仙台味噌でも登場した、

「メイラード反応(アミノ・カルボニル反応)」

を思い出してください。

味噌の熟成中、大豆や麹から生じるアミノ酸と糖などが反応し、味噌の色は徐々に褐色方向へ変化していきます。

つまり、

「赤味噌=赤い材料を使っている」

ということではありません。

大豆の加熱方法。

麹の割合。

熟成温度。

そして時間。

いくつもの条件が重なって、味噌の色が育っていきます。

会津味噌の赤い色を見たとき、

私はそこに、

「味噌が過ごしてきた時間」

を見るような気がします。


❄️ 津軽・仙台・会津――同じ赤味噌でも違う

ここで少し、北国の味噌を振り返ってみましょう。

津軽味噌では、

雪国でじっくり待つ「時間」。

仙台味噌では、

武将・兵糧・城下町という「歴史」。

そして会津味噌では、

盆地の四季を越えて育つ「季節」。

同じ東北。

同じ米味噌。

同じ赤色系。

それでも、その背景にある物語は違います。

昔の全国味噌マップを作ったときには、

「赤味噌・辛口・米味噌」

という分類で見ていた味噌も、

こうして一つひとつ土地を訪ねてみると、

その向こう側に人の暮らしが見えてきます。

これが今回、全国味噌マップをもう一度作り直している理由でもあります。


雪国では、味噌は「冬を越す知恵」だった

少し昔の会津の暮らしを想像してみましょう。

冬になれば雪が積もる。

現在のように、いつでも食材を買える時代ではありません。

そこで大切だったのが、

食べ物を保存する知恵。

乾燥する。

塩に漬ける。

発酵させる。

米と大豆を収穫し、

麹を作り、

塩と合わせ、

長く食べられる味噌へと変える。

味噌は単なる調味料ではありません。

家族が一年を通して食べていくための、

暮らしを支える保存食

でもあったのです。


会津の郷土料理「しんごろう」

会津地方の食文化を調べていると、とても面白い料理に出会います。

それが、

「しんごろう」

です。

ご飯をつぶして丸め、串などにつけ、

じゅうねん(えごま)をすりつぶし、味噌などと合わせた「じゅうねんみそ」

を塗って香ばしく焼き上げます。

農林水産省では、下郷町や南会津町を中心に伝承されてきた郷土料理として紹介しています。

米。

えごま。

味噌。

そして火。

米どころと味噌文化が一つになった、いかにも会津らしい食べ物です。

これはぜひ、会津味噌の記事に写真を入れたいですね。


馬刺しにも「からし味噌」

もう一つ、現在の会津を代表する食文化があります。

馬刺し。

会津では馬刺しを、醤油にからし味噌を溶いて食べるスタイルが知られています。

農林水産省も、会津若松の馬刺しの特徴としてこの食べ方を紹介しています。

ただし、ここは歴史を分けて考える必要があります。

会津味噌そのものには300年以上の歴史がありますが、現在知られる馬刺し+からし味噌の食文化を、そのまま江戸時代から続くものとして扱うのは正確ではありません。

昔から受け継がれてきた味噌。

そして、

その味噌を使って新しく生まれてきた食文化。

発酵文化は、昔の形をそのまま残すだけではなく、時代とともに変わりながら続いていくのですね。


️ 「会津みそ」は、現在も地域の名前を背負っている

会津味噌の物語は、昔話だけではありません。

現在、**「会津みそ」**は地域団体商標として登録されています。特許庁の地域団体商標一覧にも掲載されています。

300年以上前、城下町で育っていった味噌文化が、

今では、

「会津」という土地の名前を背負った味噌

として受け継がれている。

昔の味噌屋から、

現在の味噌蔵へ。

味噌の桶と一緒に、

文化のバトンも受け継がれてきた

ということなのだと思います。


麹屋から見た会津味噌

今回、会津味噌を調べながら、私が一番面白いと思ったのは、

「味噌が四季を経験する」

ということでした。

冬に仕込む。

春を迎える。

暑い夏を越える。

秋に味がまとまる。

そして、さらに熟成していく。

私たちは味噌づくりというと、

大豆・麹・塩

この三つを材料だと思います。

もちろん、それは間違いではありません。

でも全国の味噌を旅していると、もう一つ大切な材料があることに気づきます。

それが、

「土地の時間」

です。

会津味噌には、

会津の冬があり、

会津の春があり、

会津の夏があり、

会津の秋がある。

だから今回、私は会津味噌をこんな言葉で残しておきたいと思います。

「四季も、味噌をつくる材料だった。」


全国味噌マップ No.06

会津味噌

地域: 福島県・会津地方

種類: 米味噌

麹: 米麹

色: 赤色~赤褐色系

味わい: 辛口・香り豊か・熟成による深い旨味

熟成: 伝統的には長期熟成型

気候: 冬は寒く雪深く、盆地の夏は暑い

歴史: 江戸時代前半から300年以上続く味噌文化

現在: 「会津みそ」は地域団体商標

キーワード: 雪国・盆地・四季・城下町・熟成

※会津地方の味噌には蔵や商品によって配合・色・味・熟成方法などに違いがあります。ここでは伝統的な会津味噌に見られる代表的な特徴を紹介しています。


花ちゃん、雪の鶴ヶ城を見ながら

「味噌って、蔵の中でじっとしているだけだと思ってた。」

花ちゃんが言います。

「でも本当は、春も夏も秋も冬も、全部経験しているんだね。」

そうなんです。

人間から見れば、

味噌は桶の中で動いていません。

でも、その中では、

麹の酵素が働き、

微生物が関わり、

大豆や米の成分が少しずつ変化し、

香りが生まれ、

旨味が増し、

色が変わっていきます。

だから、

味噌は、桶の中で季節を旅している。

会津味噌を見ていると、そんな言葉が浮かんできます。


麹屋がおすすめする

「会津味噌」を仕込んでみよう

今回も、伝統的な会津味噌をそのまま再現するのではありません。

会津味噌の特徴を参考に、麹屋として家庭で仕込みやすい配合

を考えてみました。

基本の配合

乾燥大豆 1kg

米こうじ 800g

塩 450g

麹歩合は、

8割

です。

赤系で、しっかりとした旨味を持つ味噌を目指して、

一年程度を一つの目安に、四季を越えてじっくり熟成。

途中で、

色。

香り。

そして味。

その変化を観察してみてください。

ここで面白い実験もできます。

仙台味噌でおすすめした配合も、

米こうじ800g+大豆1kg+塩450g。

同じ配合です。

でも、同じ味噌になるでしょうか?

水が違う。

麹が違う。

大豆が違う。

温度が違う。

そして熟成環境が違う。

配合が同じでも、味噌は同じにならない。

これは、私たちが続けている「発酵と水」の実験にもつながってくる、とても面白いテーマです。

※この配合は会津味噌の伝統的な製法をそのまま再現するものではなく、会津味噌の特徴を参考にした鈴木こうじ店おすすめの家庭向け配合です。


❄️ 第1章「北国の味噌」を振り返って

ここで、いったん立ち止まってみましょう。

北海道から会津まで、ずいぶん旅をしてきました。

北海道味噌

人が移動すると、味噌も旅をする。

津軽味噌

時間も、味噌をつくる材料。

南部味噌

発酵の知恵は、暮らしの中から生まれた。

秋田味噌

土地で採れるものが、発酵文化をつくる。

仙台味噌

味噌は、人を支える力だった。

そして、

会津味噌

四季も、味噌をつくる材料だった。

「東北には赤くて辛い味噌が多い。」

その一言だけでは見えなかったものが、

一つひとつ土地を訪ねることで見えてきました。

気候。

農業。

歴史。

保存の知恵。

そして人の暮らし。

味噌の向こう側には、人の暮らしがある。

これが、北国を旅して見つけた一つの答えなのかもしれません。


次回――旅は日本海へ

北国の味噌を巡ってきた花ちゃん。

次は少し進路を変えます。

山を越え、

日本海へ。

そして船に乗って向かうのは――

佐渡島。

実は佐渡は、この旅の最初に訪れた北海道味噌の物語ともつながっています。

人が移動する。

米が動く。

大豆が動く。

技術が伝わる。

そして、

味噌も旅をする。

北海道から始まった一本の糸が、

日本海を通って、

もう一度ここでつながろうとしています。

主な調査資料

福島県「福島県ブランド認証産品・会津みそ」

農林水産省「福島県・会津地方の食文化」

農林水産省「しんごろう」

特許庁「地域団体商標・会津みそ」

会津味噌協同組合「会津味噌のルーツ」

会津若松観光ナビ「会津の歴史と物語」

次回、

【第2章 日本海と山国の味噌】

第8話 佐渡味噌

~海を渡った人々と、島で育った赤味噌~

味噌の旅は、まだまだ続きます。

日本の味噌を、もう一度旅してみよう。


鈴木こうじ店

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