第5話 秋田味噌 ~米どころ秋田が育てた、麹の香り豊かな赤味噌~

【第1章 北国の味噌】

第5話 秋田味噌

~米どころ秋田が育てた、麹の香り豊かな赤味噌~

北海道から津軽へ。

そして南部地方へ。

北国の味噌を訪ねてきた私たちの旅は、さらに南へ進みます。

今回訪ねるのは、

秋田県。

秋田と聞いて、まず思い浮かべるものは何でしょう。

きりたんぽ。

日本酒。

そして――

お米。

秋田は、言わずと知れた米どころです。

そして面白いことに、お米が豊かな土地では、その米から作る**「米麹」**の文化も豊かに育ってきました。

今回の主役は、

秋田味噌。

赤褐色のしっかりとした味噌でありながら、麹由来のやわらかな甘味と香りも感じられる。

なぜ北国の秋田で、こんな味噌が生まれたのでしょう。

今回のキーワードは、

「米」と「麹」

です。


🌾 花ちゃんの「なぜ?」

黄金色の田んぼを見ながら、花ちゃんが聞きました。

「秋田って、お米がたくさん採れるんだよね?」

そうですね。

「じゃあ……お米がたくさんあるから、味噌にも米麹をいっぱい使ったの?」

おっ。

これは今回の旅にぴったりの質問です。

味噌の味を大きく左右するものの一つに、

麹歩合

があります。

大豆に対して、どれくらい麹を使うのか。

全国の味噌を理解するためには、この「麹歩合」がとても重要なのです。


秋田味噌って、どんな味噌?

秋田味噌は、

大豆+米麹+塩

を基本に作られる米味噌です。

一般的には赤色から赤褐色系。

北国らしいしっかりした味わいを持ちながら、米麹由来の甘味や香りが感じられる味噌として知られています。

秋田県味噌醤油工業協同組合は、秋田味噌について「米どころ秋田ならではの良質な米と大豆」を原料とし、米麹を比較的多く使うことから、麹由来の甘さや香りが特徴になると紹介しています。

つまり秋田味噌を理解する鍵は、

「米どころ」と「麹」

にありそうです。


なぜ秋田は「米どころ」になったのでしょう?

 

秋田県には、広い平野と豊かな水があります。

雄物川、米代川などの河川。

雪国の山々から流れ出す水。

そして稲作に適した土地。

現在では「あきたこまち」に代表される米の産地として全国的に知られています。

でも、全国味噌マップで注目したいのは、

お米を主食として食べるだけではなかった

というところです。

米は、

日本酒になり、

米麹になり、

味噌になり、

甘酒になり、

漬物にも使われる。

米どころでは、一粒のお米からさまざまな発酵文化が生まれていきました。

秋田は、その代表的な土地の一つです。


「麹歩合」って何?

ここで全国味噌シリーズでは初めて、少しだけ味噌づくりの話をしましょう。

麹歩合とは、大豆に対してどれくらい麹を使うかを表す目安です。

たとえば、

大豆1kgに対して米麹1kgなら、

10割麹。

大豆1kgに対して米麹800gなら、

8割麹。

大豆1kgに対して米麹1.2kgなら、

12割麹。

となります。

一般に米麹の割合を増やすと、麹由来の甘味や香りを感じやすい味噌になります。

反対に大豆の割合が高くなれば、大豆の旨味や力強さを感じやすくなります。

もちろん、味噌の味は麹歩合だけで決まるわけではありません。

塩分。

大豆の種類。

米の種類。

水。

熟成温度。

熟成期間。

さまざまな条件が重なって一つの味噌になります。

でも、

「この土地では、なぜこの麹歩合になったのだろう?」

と考えると、味噌とその土地との関係が見えてくるのです。


米があるから、麹がある

麹屋として秋田味噌を見ると、ここがとても面白いところです。

味噌を作るには麹が必要です。

でも、その麹を作るには、

原料となる穀物が必要です。

米が豊富な土地では、米麹を作りやすい。

そして米麹が身近にあれば、それを使った発酵食品も発達していく。

これは、とても自然な流れだったのではないでしょうか。

秋田には味噌だけでなく、日本酒、甘酒、漬物など、麹と深く関係する食文化があります。

特に秋田の発酵文化を語るうえで面白いのが、

「三五八漬け」です。

三五八漬けは、米・米麹・塩で作った白っぽい漬け床に、きゅうり・にんじん・かぶなどを漬けた姿が分かりやすいです。農林水産省にも実物写真があります。ただ、ひとつ大事な発見がありました。「三五八」の配合は資料によって表現が違います。 農林水産省の福島県の資料では「塩3・麹5・米8」が名称の由来とされる一方、秋田市文化創造館では秋田に伝わる三五八を「塩3・ごはん5・麹8」と紹介しています。つまり、地域や伝承によって違いがあります。

 

塩・米麹・米などを使って野菜を漬ける、東北地方に伝わる発酵食品。

以前「菌は旅をする」でも秋田を訪ねましたね。

あのときの主役も、

麹。

こうして味噌の旅で秋田へ戻ってくると、

「やっぱり秋田は麹の土地なんだな」

と改めて感じます。


北国なのに「甘味」がある

ここで少し面白いことがあります。

これまで訪ねた津軽味噌や南部味噌では、

しっかりした塩味。

大豆の旨味。

長期熟成。

といった特徴が目立ちました。

秋田味噌も赤系のしっかりした味噌ですが、そこに、

米麹の甘味と香り

が加わります。

なぜでしょう。

その一つの理由として考えられるのが、

麹を比較的多く使うこと。

麹の酵素によって原料の成分が分解され、糖やアミノ酸などが生まれていきます。

そのため、麹歩合は味噌の甘味や旨味を考えるうえで大切な要素になります。

「北国の味噌=全部同じ辛口」

ではないんですね。

これが全国の味噌を旅する面白さです。


秋田の食卓と味噌

そして秋田といえば、

きりたんぽ鍋。

炊いたご飯をつぶして棒に巻き、焼いた「きりたんぽ」を、鶏肉やごぼう、せりなどと一緒にいただく秋田を代表する郷土料理です。

きりたんぽ鍋そのものは醤油仕立てが一般的ですが、秋田には味噌を使った鍋物や汁物もたくさんあります。

たとえば、

石焼料理。

男鹿半島に伝わる豪快な郷土料理です。

魚介類などを入れた桶に、真っ赤に焼いた石を入れて一気に煮立たせる。

味噌仕立てにすることもあります。

寒い土地で、熱々の汁を囲む。

そこに、その土地で作られた味噌がある。

やはり北国では、

味噌と温かい汁物

は切っても切れない関係なのだと思います。


味噌と日本酒は、実は近い親戚?

秋田の発酵文化を見ていると、もう一つ気づくことがあります。

味噌屋と酒蔵。

作っているものは違います。

でも、どちらにも欠かせないものがあります。

それが、

米麹。

酒造りでは、麹の酵素を利用して米のでんぷんを糖へ変えていきます。

味噌では、麹の酵素が原料を分解し、甘味や旨味、香りの形成に関わります。

同じ米麹でも、

酒蔵へ行けば日本酒になり、

味噌蔵へ行けば味噌になる。

以前の「菌は旅をする」シリーズで、

「麹屋は発酵文化のスタート地点」

とお話ししました。

秋田を訪ねると、その言葉がもう一度つながってきます。


🌾 麹屋から見た秋田味噌

北海道味噌では、

「人が移動すると、味噌も旅をする。」

津軽味噌では、

「時間も、味噌をつくる材料。」

南部味噌では、

「発酵の知恵は、暮らしの中から生まれた。」

そして秋田味噌から感じるのは、

「土地で採れるものが、発酵文化をつくる。」

ということです。

米が豊かに実る。

その米から麹を作る。

麹から味噌を作る。

酒を造る。

甘酒を作る。

漬物を漬ける。

つまり秋田では、

田んぼから発酵文化が始まっている。

そんな見方もできるのではないでしょうか。

これは麹屋として、とても好きな考え方です。


🗾 全国味噌マップに四枚目を追加!

No.04 秋田味噌

地域 秋田県

種類 米味噌

麹 米麹

色 赤色~赤褐色系

味わい しっかりした旨味と塩味、米麹由来の甘味と香り

注目ポイント 米どころと比較的高い麹歩合

キーワード 米・米麹・麹歩合・雪国・発酵文化

今回の「なぜ?」は、

なぜ米どころ秋田では、麹をたっぷり使う味噌が育ったの?

その背景に見えてきたのは、

豊かな米と、その米を麹へ変えて暮らしに生かしてきた人々の発酵文化

でした。


🌾 花ちゃん、田んぼを見ながら

「お米って、ご飯になるだけじゃないんだね!」

そうなんです。

ご飯になり、

お酒になり、

甘酒になり、

漬物を育て、

そして――

味噌を育てる麹になる。

一粒の米から、いくつもの発酵文化が生まれていく。

花ちゃんが言います。

「じゃあ秋田味噌って、田んぼから始まっているんだね!」

まさに、その通りかもしれません。


🌾 麹屋がおすすめする「秋田味噌」の仕込み

今回も、秋田味噌の特徴を参考にして、家庭で仕込みやすい配合を考えてみましょう。

秋田味噌らしく、今回は米麹を少し多めに使うのがポイントです。

たとえば、

米麹 1.2kg

大豆 1kg

塩 400g

なら、麹歩合は12割。

麹の香りと甘味を感じながら、大豆の旨味もしっかり残した赤系の味噌を目指します。

熟成は、まず6か月以上。

さらに季節を越えて熟成させながら、色・香り・味の変化を楽しんでみてください。

ここでご紹介する配合は「秋田味噌は必ずこの配合」という意味ではありません。

地域や蔵、家庭によって麹歩合、塩分、熟成期間はさまざまです。

全国の味噌文化を参考にしながら、

麹屋として家庭で仕込みやすい味噌

をご提案しています。

これも最後は、北海道・津軽・南部と同じように**「麹屋がおすすめする秋田味噌の仕込み」イラスト**にすると分かりやすいですね。


次回予告

【第1章 北国の味噌】

第6話 仙台味噌

~伊達政宗とともに育った、武将の味噌~

次の目的地は宮城県。

ここでは、これまでとは少し違う角度から味噌を見てみましょう。

登場するのは――

伊達政宗。

仙台味噌には、戦国から江戸へと移り変わる時代と、武士の食文化につながる物語があります。

なぜ仙台で、しっかりした味わいの赤味噌が発達したのでしょう。

次回は、

「武将と味噌」

を訪ねます。

日本の味噌を、もう一度旅してみよう。


鈴木こうじ店

創業百五十余年の伝統と職人の技術で、皆様の美味しい発酵ライフをサポートいたします。

無断転載・コピーを禁ず

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です