第3話 津軽味噌 雪国でじっくり育った、長期熟成の赤味噌

【第1章 北国の味噌】

第3話 津軽味噌

~雪国でじっくり育った、長期熟成の赤味噌~

北海道から津軽海峡を渡り、今回訪ねるのは青森県。

冬になれば、一面を雪が覆う津軽地方です。

全国味噌マップ・アップデート版、二つ目の味噌は、

「津軽味噌」

です。

津軽味噌と聞いて、皆さんはどんな味噌を思い浮かべるでしょうか。

赤い味噌?

しっかりした塩味?

それとも、昔ながらの田舎味噌でしょうか。

津軽味噌を調べていくと、その特徴の奥に一つの言葉が見えてきました。

それは、

「待つ」

ということです。


🌾 花ちゃんの「なぜ?」

雪景色を眺めながら、花ちゃんが聞きました。

「寒いところでは、味噌もゆっくり育つの?」

そうなんです。

味噌の熟成には温度が大きく関係します。

気温が高ければ発酵・熟成の変化は比較的進みやすく、低温ではゆっくりになります。

現在の味噌造りでは温度管理もできますが、自然の気候の中で味噌を作っていた時代、雪国の寒さは味噌造りにも大きく関係していたはずです。

そして津軽の人々は、その土地の環境の中で味噌を作り、保存し、食べてきました。


津軽味噌って、どんな味噌?

津軽味噌は、一般的には

大豆+米麹+塩

で仕込む米味噌です。

色は赤色から赤褐色系。

しっかりとした塩味と、大豆の旨味、長い熟成によって生まれる深い香りやコクを持つ味噌として知られています。

ここまでは北海道味噌とも少し似ていますね。

でも、津軽味噌を特徴づける重要な要素があります。

長期熟成です。


なぜ、長く熟成させたのでしょう?

味噌は仕込んだ瞬間に完成する食品ではありません。

麹の酵素によって大豆のたんぱく質やでんぷん質などが分解され、時間とともに旨味や甘味、香りが生まれていきます。

ところが津軽の冬は長く、寒い。

昔の自然環境では、冬の間は熟成の進み方も穏やかになります。

春になり、夏を迎える。

また秋が来て、冬になる。

そんな季節の巡りを何度も経験しながら、味噌が少しずつ変化していく。

「寒いから発酵しない」のではなく、寒さを含めた季節の繰り返しの中で、ゆっくり味噌を育ててきた。

私は津軽味噌を、そんなふうに見てみたいと思います。


「3年、4年たってから味噌桶を開ける」

青森県史を調べていて、麹屋としてとても興味深い記録に出会いました。

青森県の下北地方では、昔ながらの味噌について、

仕込んだ味噌に手をつけるのは3~4年後。

早く開けると、まだ色が十分に出ていなかったり、塩がこなれていなかったと記録されています。

また、青森県南部の民俗資料にも、味噌を仕込んでから2年ほど経って初めて食べるという記録が残されています。

もちろん、これは青森県内の伝統的な味噌文化の例であり、すべてが現在の「津軽味噌」の製法そのものという意味ではありません。

それでも、

「味噌は時間をかけて育てるもの」

という雪国の食文化を知るうえで、とても興味深い記録だと思います。

今なら半年、一年で味噌を食べ始めることも珍しくありません。

それを2年、3年、4年と待つ。

昔の人にとって味噌は、「今年作って今年食べるもの」ではなく、

何年も先の家族の食卓を考えて仕込む保存食

でもあったのでしょう。


味噌桶にも、雪国の知恵がありました

さらに面白い記録があります。

昔の青森では、味噌を桶に詰め、その上にササやホオノキ、カシワなどの葉を敷き、石をのせて、冷暗な味噌蔵で熟成させた地域がありました。

夏の土用になると、桶の底にたまった塩をなじませるために「つき返し」をすることもあったそうです。

味噌造りは単なるレシピではありません。

温度計も発酵器もなかった時代、人は季節を見ながら、

桶を見て、香りを嗅ぎ、味を確かめて味噌を育てていた。

麹屋として、こういう記録にはとても惹かれます。


長期熟成すると、なぜ赤くなるの?

ここで花ちゃんから、もう一つ質問です。

「長く置いておくと、どうして味噌が赤くなるの?」

これは面白いところですね。

味噌の熟成中には、原料由来の糖とアミノ酸などが反応して、色や香りに関わる成分が生まれていきます。

いわゆる**メイラード反応(アミノカルボニル反応)**です。

時間や温度などによって進み方は変わりますが、熟成が進むにつれて味噌の色は濃くなっていきます。

ですから赤味噌というのは、

「赤い材料を使っているから赤い」わけではありません。

大豆の処理方法、麹歩合、温度、熟成期間など、さまざまな条件が重なって色が生まれます。

この「味噌の色」は、全国味噌シリーズでもこれから何度も登場する大切なテーマです。


津軽の冬と、味噌料理

味噌は作るだけではなく、どう食べられてきたかを見ると、その土地の暮らしがさらに見えてきます。

津軽には「けの汁」という郷土料理があります。

保存しておいた山菜や野菜などを細かく刻み、大豆や昆布とともに煮て、味噌で味をつける冬の料理です。

青森県史にも、旧正月ごろに作られる「けの汁」と、長い冬の暮らしとの結びつきが記録されています。

また沿岸部では、イカの胴に足と味噌を詰めて焼く「チッポウ焼き(テッポウ焼き)」など、魚介と味噌を組み合わせた食べ方も伝えられていました。

雪で畑が覆われる冬。

秋までに収穫した野菜や山菜を保存し、大豆を蓄え、味噌を仕込む。

そして、その味噌で冬の食卓を作る。

味噌は、雪国で暮らすための知恵の一つだったのですね。


麹屋から見た津軽味噌

北海道味噌を訪ねたとき、私は、

「人が移動すると、味噌も旅をする」

ということを感じました。

津軽味噌から感じるのは、

「時間も味噌を作る材料の一つ」

ということです。

大豆。

米麹。

塩。

水。

そして――

時間。

味噌の原材料表示には「時間」とは書かれていません。

でも味噌屋にとって、これほど重要な材料はないのかもしれません。

半年待つ。

一年待つ。

さらにもう一年待つ。

季節を何度も越えることで、若い味噌にはない色、香り、旨味が生まれていく。

津軽味噌は、

「急がず、待つことも発酵の仕事なんだよ」

と教えてくれているように感じます。


🗾 全国味噌マップに二枚目を追加!

No.02 津軽味噌

地域 青森県・津軽地方

種類 米味噌

麹 米麹

色 赤色~赤褐色系

味わい しっかりした塩味、熟成による旨味とコク

注目ポイント 北国の気候と長期熟成

郷土料理 けの汁など

今回の「なぜ?」は、

なぜ津軽では、味噌をじっくり熟成させてきたの?

その背景に見えてきたのは、

雪国の気候、保存食の文化、そして「待つ」という暮らしの知恵。

でした。


🌾 花ちゃん、さらに南へ

「味噌って、大豆と麹と塩だけで作っていると思っていたけど……」

花ちゃんが味噌桶を眺めます。

「時間も材料なんだね!」

そうかもしれませんね。

北海道から青森へ。

まだ全国味噌マップには二枚しかカードがありません。

でも、もう二つの違う物語に出会いました。

そして青森には、まだ気になる味噌があります。

次に訪ねるのは、青森から岩手にまたがる南部地方。

そこには、大豆の割合が多く、昔ながらの**「味噌玉」**とも深く関わる味噌文化があります。

次回予告

【第1章 北国の味噌】

第4話 南部味噌

~大豆の旨味を大切にした、北国の味噌~

次は、**「なぜ大豆を味噌玉にしたのか?」**というところから、南部地方の味噌造りを訪ねてみましょう。

日本の味噌を、もう一度旅してみよう。


鈴木こうじ店

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