第2話 北海道味噌 北の大地で育った、すっきり辛口の米味噌

【第1章 北国の味噌】

第2話 北海道味噌

~北の大地で育った、すっきり辛口の米味噌~

「日本の味噌を、もう一度旅してみよう。」

前回の序章「味噌の国、日本」では、日本には米味噌、麦味噌、豆味噌があり、同じ味噌でも土地によって色も香りも味も大きく違うことをご紹介しました。

では、なぜこれほど違うのでしょう。

その答えを探す「全国味噌マップ・アップデート版」。

最初の目的地は、日本列島をずっと北へ。

北海道です。


🌾 花ちゃんの「なぜ?」

日本地図の一番上を指さして、花ちゃんが聞きます。

「北海道って寒いよね。
寒いところでは、どんな味噌ができるの?」

いい質問ですね。

北海道で親しまれてきた味噌は、主に米麹を使った米味噌。

一般的には赤系から赤褐色で、甘味よりも塩味を感じる辛口系の味噌として紹介されます。

でも――。

北海道味噌を調べてみると、面白いことが見えてきます。

北海道の味噌文化を作ったのは、気候だけではありませんでした。


北海道味噌って、どんな味噌?

まず基本から見てみましょう。

北海道味噌は、

大豆+米麹+塩

から作る「米味噌」です。

比較的すっきりとした味わいの辛口味噌が多く、色は赤系のものが知られています。

北海道は大豆をはじめとする農産物にも恵まれた土地です。

広い大地で育つ原料と、北国の気候。

そこから北海道独自の味噌文化が育っていきました。

ただし、

「北海道味噌はこれ!」

という一つの決まった味があるわけではありません。

ここが今回の大切なところです。


北海道の味噌文化は、どこから来たのでしょう?

北海道の歴史を見てみると、大きな転換点があります。

明治時代の北海道開拓です。

明治2年(1869年)、政府は「開拓使」を設置し、北海道の開拓を本格的に進めました。

その後、北海道には本州各地から多くの人々が移り住むようになります。

当然、人が移動すれば、

その人たちが食べてきた味も一緒に移動します。

味噌もその一つだったのではないでしょうか。

東北から来た人。

北陸から来た人。

新潟から来た人。

それぞれが故郷で食べていた味噌や、味噌作りの知恵を持ち込んだ。

そして、それが北海道の気候や原料と出会っていく。

北海道味噌は、最初から一つの完成した「北海道の味」だったというより、

さまざまな地域の味噌文化が北の大地で出会い、少しずつ北海道らしい味になっていった。

そんな見方をすると、とても面白いのです。


北海道には、明治時代にすでに味噌工場があった

さらに調べていくと、興味深い記録があります。

明治9年(1876年)の開拓使の資料には、

「篠路味噌醤油製煉所」

という名前が残されています。

現在の札幌周辺です。

つまり北海道の本格的な開拓が進められていた時代に、すでに味噌や醤油を製造する施設が存在していたことになります。

その後、明治22年(1889年)には、官営の味噌醤油製造所が民間へ払い下げられた記録も残されています。

味噌は家庭だけで作られていたものではなく、北海道の新しい町づくりの中で、産業としても育ち始めていたのです。

味噌屋としてこの記録を見ると、とても興味深いものがあります。

新しい土地に人が暮らし始める。

すると、そこには米屋が必要になり、醤油屋が必要になり、そして――

味噌屋も必要になる。

味噌は、暮らしと一緒に移動してきた食品だったのですね。


寒い北海道だから、味噌はどう変わった?

ここで花ちゃんから、もう一つ質問です。

「北海道は寒いから、味噌もゆっくり発酵するの?」

これは、とても大事な視点です。

味噌の熟成には温度が大きく関係します。

一般に気温が低ければ、微生物や酵素による変化の進み方は穏やかになります。

昔のように自然の気温に大きく左右される環境では、北海道の長い冬は味噌の熟成にも影響したでしょう。

しかし、

「寒い=辛口味噌になる」

と単純には言えません。

味噌の甘口・辛口を決めるのは、気温だけではないからです。

麹をどれだけ使うのか。

塩をどれだけ使うのか。

どのくらい熟成させるのか。

そして、どんな味をその土地の人たちが好んできたのか。

いくつもの条件が重なって味噌の個性が生まれます。

このシリーズでは、こうした「○○地方だから○○味噌」という説明だけではなく、

なぜそうなったのか

を一つずつ考えていきたいと思います。


北海道の食卓と味噌

北海道には、鮭、じゃがいも、玉ねぎ、とうもろこしなど、豊かな食材があります。

そんな北海道の食卓でも、味噌は昔から身近な調味料でした。

味噌汁はもちろん、魚や野菜と合わせたり、鍋料理や味噌仕立ての料理に使ったり。

北海道の豊かな食材と味噌は、とても相性の良い組み合わせです。

味噌は主役になることもあれば、素材の味を引き立てる脇役にもなる。

だからこそ、その土地で採れるものが変われば、

味噌の使われ方も変わっていく。

全国の味噌を知るには、「味噌そのもの」だけではなく、

その味噌を何と一緒に食べてきたのか

を見ることも大切なのです。


麹屋から見た北海道味噌

私が北海道味噌を見ていて面白いと思うのは、

「人の移動とともに味噌も旅をした」

というところです。

味噌は、その土地だけで突然生まれるものではありません。

人が移り住み、故郷の味を持ち込み、新しい土地の気候や原料に合わせて作り方を変えていく。

それを何十年、何世代と繰り返していくうちに、

「その土地の味」

になっていくのではないでしょうか。

北海道味噌は、そのことを教えてくれる味噌の一つだと思います。


🗾 全国味噌マップに一つ追加!

今回から、一つの味噌を訪ねるたびに「味噌カード」を増やしていきます。

北海道味噌

地域 北海道
種類 米味噌
麹 米麹
色 赤系~赤褐色
味 辛口系
特徴 すっきりとした味わい。北海道の気候と、本州各地から移り住んだ人々の食文化が重なりながら育った米味噌。

そして今回の「なぜ?」は――

なぜ北海道に、この味噌文化が生まれたのか?

その答えは、

「北国の気候」だけではなく、「人の移動」も大きな鍵だった。

ということになりそうです。

全国味噌マップ、最初の一枚が入りました。

そして最後に麹屋がお勧めする北海道味噌の作り方の紹介です。


🌾 花ちゃん、次は海を渡ります

「北海道だけでも、味噌の後ろにこんなに歴史があるんだね!」

そうなんです。

味噌を一杯見るだけでは分からない。

でも歴史をたどってみると、

そこには人がいて、暮らしがあって、旅がある。

では次は、北海道から津軽海峡を渡って青森県へ。

雪深く、寒さの厳しい津軽地方では、味噌はどのように育ってきたのでしょう。

北海道味噌より、さらに長い熟成期間を必要としたともいわれる味噌があります。

次の目的地は――

青森県。


次回予告

【第1章 北国の味噌】

第3話 津軽味噌

~雪国でじっくり育った、長期熟成の赤味噌~

なぜ津軽の味噌は、長い時間をかけて熟成させてきたのでしょう。

次回は、

「寒さと味噌の熟成」

をもう少し深く見ていきます。


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