総ハゼと突きハゼ、二つの美しさ
麹の世界 第13話
父が教えてくれた麹
~総ハゼと突きハゼ、二つの美しさ~

「父の麹は、本当にきれいだった。」
私が麹屋になった頃、いつも目標にしていた麹があります。
それは父が作る麹です。
麹蓋を開けると、一面が真っ白。
まるで雪が降り積もったように、お米全体がふんわりと白く包まれていました。
子どもの頃は、それが当たり前だと思っていました。
しかし、自分で麹を作るようになって初めて気づきます。
「あの麹は簡単には作れない。」
父が長年積み重ねてきた技術の結晶だったのです。
総ハゼという美しさ
父が目指していたのは、
総ハゼ(そうはぜ)
と呼ばれる麹でした。
総ハゼとは、
お米の表面全体を麹菌がふんわりと覆い、
さらにお米の中までしっかり菌糸が伸びた状態です。
見た目は、
まるで白い毛皮をまとったよう。
昔から麹屋では、
「良い麹ができた。」
そんな喜びの象徴でもありました。
私は今でも、その美しさを忘れることができません。

一方、酒蔵では…
ところが、種麹屋さんへ通うようになると、
思いがけない話を聞きました。
「鈴木さん、酒蔵さんは少し違う麹を目指すんですよ。」
「えっ?同じ黄麹なのにですか?」
「そうなんです。」
酒造りで大切にされるのは、
突きハゼ
という麹でした。
突きハゼとは?
突きハゼとは、
お米の表面全体が白くなるのではなく、
ところどころに白い部分が見える程度。
しかし、その白い部分から菌糸がお米の中心へ深く伸びています。
見た目は控えめですが、
中ではしっかり働いているのです。
酒造りでは、お米を急激に溶かさず、
ゆっくりと発酵を進めることが大切です。
そのため、突きハゼの麹が理想とされています。
どちらが優れているの?
ここでよく聞かれる質問があります。
「総ハゼと突きハゼ、どちらが良い麹なんですか?」
答えは、
どちらも素晴らしい麹です。
目的が違うだけなのです。
味噌や甘酒では、
麹菌がたくさん育ち、
酵素を豊富に作る総ハゼが力を発揮します。
一方、日本酒では、
発酵を繊細にコントロールするために、
突きハゼが活躍します。
料理で言えば、
和食とフランス料理、
どちらも一流だけれど、
目指す味わいが違うのと同じです。
種麹屋さんから教わった一言
私が麹づくりを始めた頃、
父のような真っ白な総ハゼ麹を作りたくて、
毎日挑戦していました。
そんな時、種麹屋さんが静かに言いました。
「鈴木さん。
見た目だけを追いかけなくてもいいですよ。」
私は少し驚きました。
すると続けて、
「まずは、お米の中まで菌をしっかり伸ばしてください。
見た目よりも、麹がしっかり働くことが大切です。」
その言葉は、
今でも私の麹づくりの原点になっています。
父から受け継ぎ、私が学んだこと
父は、
美しい総ハゼを育てる職人でした。
私は、
種麹屋さんから、
麹が働く仕組みを教えていただきました。
どちらも間違いではありません。
父から受け継いだ技術。
種麹屋さんから学んだ知識。
その両方が重なって、
今の鈴木こうじ店の麹づくりがあります。
麹づくりに正解は一つではない
35年間麹を育ててきて思うことがあります。
麹づくりには、
「これだけが正解」
という答えはありません。
味噌には味噌の麹。
日本酒には日本酒の麹。
それぞれに目指す姿があります。
大切なのは、
何を作るための麹なのかを理解し、
その目的に合わせて育てることなのです。
まとめ
父が目指した総ハゼ。
酒蔵が目指す突きハゼ。
見た目は違っても、
どちらも長い年月の中で磨かれてきた日本の発酵文化の知恵です。
そして私は、
父から受け継いだ技術と、
種麹屋さんから教わった知識を大切にしながら、
今日も一粒一粒の麹と向き合っています。
🌾 米の花ちゃんのひとこと
「総ハゼは、真っ白な毛皮をまとった麹さん。
突きハゼは、お米の中まで力強く伸びる麹さん。
見た目は違っても、どちらも一生懸命働く麹なんだね!
大切なのは『どちらが上か』ではなく、『何を作るための麹なのか』なんだ!」
次回予告
麹の世界 第14話
**「父の背中を追いかけて
~33歳、六代目麹屋の挑戦~」**
父の突然の死。
病院勤務から一転、麹屋六代目として歩み始めた33歳の私。
思うように麹ができず、何度も悩み、失敗を繰り返しました。
それでも支えてくれた家族、そして種麹屋さん。
次回は、六代目として歩み始めた頃の、本当の物語をお届けします。

