麹菌さん、大ピンチ!
麹の世界 第11話
麹菌さん、大ピンチ!
~納豆菌との知られざる攻防~

「あれ…いつもの麹じゃない。」
35年間、麹を育ててきた中で、今でも忘れられない出来事があります。
それは、ある春の日のことでした。
冬から春へ季節が変わる頃は、昼と夜の寒暖差が大きく、麹室の温度管理が一年でも特に難しい時期です。
その日も、いつものように麦麹を仕込みました。
種付けを終え、順調に育っていると思っていたのですが……。
翌日、麹室へ入った私は、思わず立ち止まりました。
「何かがおかしい。」
麹がベタベタしているのです。
香りも、いつもの甘い香りとは違いました。
その瞬間、嫌な予感がしました。
元気すぎる温度が招いた出来事
原因を調べていくと、麹の温度が思っていた以上に上がっていました。
麹菌は元気に育つほど熱を出します。
その熱が積み重なり、気づかないうちに温度が高くなっていたのです。
そして、その環境を一番喜んだのが……
納豆菌でした。
第10話でご紹介したように、納豆菌は40〜45℃を好む、とても生命力の強い細菌です。
温度が高くなったことで、納豆菌が勢いよく増え始め、麹菌が十分に働けなくなってしまったのです。
納豆菌は悪者ではない
ここで、もう一度お伝えしたいことがあります。
納豆菌は決して悪者ではありません。
納豆という素晴らしい発酵食品を作る、大切な微生物です。
ただ、その力があまりにも強いため、麹づくりの現場では主役が入れ替わってしまうことがあります。
発酵の世界には「良い菌」と「悪い菌」がいるのではありません。
その場所に合った菌がいるかどうか。
それがとても大切なのです。
全部廃棄という決断
出来上がった麦麹は、商品として販売できる状態ではありませんでした。
長い時間をかけて育てた麹。
袋詰めを待っていた麦麹。
すべて廃棄するしかありませんでした。
麹屋として、本当に悔しい瞬間でした。
「もう少し早く気づいていれば……。」
そんな思いが何度も頭をよぎりました。
救ってくれたのは種麹屋さん
私はすぐに種麹屋さんへ相談しました。
すると、
「鈴木さん、失敗の原因は分かっていますよ。」
そう優しく声をかけてくださいました。
そして、
「この菌株を試してみませんか。」
と、新しい菌株を紹介してくださいました。
さらに、
- 春先の温度管理の考え方
- 麦麹特有の発熱の特徴
- 麹菌が元気に育つ温度帯
- 納豆菌が増えやすい条件
まで、一つひとつ丁寧に教えてくださいました。
その時、私は改めて思いました。
麹は一人では作れない。
種麹屋さんという、心強いパートナーがいてくれるからこそ、より良い麹づくりができるのだと。
失敗が教えてくれたこと
あの日以来、私は温度計の数字だけを見ることをやめました。
麹の香り。
手で触れた温かさ。
麹の表情。
そんな小さな変化にも耳を傾けるようになりました。
失敗は決してうれしいものではありません。
でも、あの経験があったからこそ、今の鈴木こうじ店の麹づくりがあります。
発酵は「菌」と「人」の共同作業
麹菌は一生懸命働きます。
でも、温度や湿度を自分で選ぶことはできません。
その環境を整えるのは、私たち麹屋の仕事です。
そして、困った時には種麹屋さんが支えてくれる。
発酵とは、微生物だけの世界ではありません。
人と菌、人と人が力を合わせて育てていく文化なのです。
まとめ
納豆菌との思わぬ出会いは、私に大きな教訓を残してくれました。
温度管理の大切さ。
菌の個性を知ることの大切さ。
そして、困った時に支えてくれる仲間の存在。
失敗は苦しい経験でしたが、その経験があったからこそ、今の麹づくりがあります。
私はこれからも、麹菌が安心して働ける環境を整えながら、一粒一粒の麹を大切に育てていきたいと思います。
🌾 米の花ちゃんのひとこと
「納豆菌さんは悪い菌じゃないんだね。
でも、麹菌さんのお仕事場では、麹菌さんが元気に働ける環境を守ることが大切なんだ。
失敗しても、その経験を次につなげることが、本当の職人さんなんだね!」
麹の世界 第12話
麹菌さんにも仲間がいる!
~自然界では、みんなで発酵を支えている~

