麹菌さん、大忙し!~麹室は眠れない~

麹の世界 第4話

麹菌さん、大忙し!

~麹室は眠れない~

「こんばんは。これからが私たちの仕事です。」

夜11時。

町は静かに眠り始めています。

でも、麹屋の工場だけは違います。

静まり返った麹室(こうじむろ)の中では、小さな麹菌たちが一斉に活動を始めています。

昼間に蒸米へ種付けされた麹菌。

いよいよ、お米の中で本格的に成長を始める時間です。

そして、その小さな命と向き合うのが、私たち麹屋の仕事です。


麹菌は呼吸をしています

麹菌は、お米の表面に付いただけではありません。

少しずつ菌糸を伸ばし、お米の中へ入り込んでいきます。

そのとき麹菌は、

  • 呼吸をし、
  • 栄養を取り込み、
  • 酵素を作り、
  • どんどん成長していきます。

まるで子どもが元気いっぱい走り回るように、麹菌も一生懸命働いているのです。

元気になりすぎると…

ところが、元気になればなるほど困ることがあります。

それは、

「熱」

です。

麹菌は活動すると、自分で熱を出します。

最初はほんの少しだった温度が、

30℃…

35℃…

40℃…

と、少しずつ上がっていきます。

もしそのまま放っておけば、さらに温度は上昇し、麹菌自身が弱ってしまうこともあります。

元気だからこそ、温度管理が必要なのです。


夜中でも麹菌は待ってくれません

「今日は夜中も見に行かなければ。」

麹づくりの期間中、私たちは何度も麹室へ足を運びます。

夜中でも、早朝でも関係ありません。

温度計を見るだけではなく、

麹の香りを確かめ、

表面の色を見て、

手で触れて温かさを感じます。

機械だけでは分からない、小さな変化を見逃さないようにするためです。

長年麹づくりを続けてきた今でも、この時間は毎回緊張します。


「切り返し」という大切な仕事

麹菌が元気に育ち始めると、お米同士が少しずつ固まり始めます。

そのままでは空気が通りにくくなり、熱もこもってしまいます。

そこで行うのが、

「切り返し」

という作業です。

蒸米をやさしくほぐしながら、空気を送り込み、温度を均一にしていきます。

まるで布団をふんわり干すように、お米一粒一粒が呼吸できるように整えてあげるのです。

麹菌にとっては、とても気持ちの良い時間なのかもしれません。


麹菌と麹屋の共同作業

麹づくりは、人が作るものではありません。

麹菌だけでも作れません。

麹菌が元気に育ち、

麹屋がその成長を見守る。

この二人三脚があって初めて、おいしい麹が生まれます。

私はいつも、

「麹を作っている」というより、

「麹を育てている」

という気持ちで仕事をしています。

だから毎回、麹の出来上がりは少しずつ違います。

それが麹づくりの難しさであり、面白さでもあるのです。


35年間変わらない緊張感

35年間、何千回と麹を育ててきました。

それでも、麹室へ入る瞬間は、今でも少し緊張します。

今日は元気かな。

温度は上がりすぎていないかな。

香りはどうだろう。

そんなことを考えながら、静かな麹室の扉を開けます。

そこには、白くふわりと育ち始めた麹が待っています。

その姿を見るたびに、

「今日もありがとう。」

そんな気持ちになります。


まとめ

麹菌は、お米の中で眠ることなく働き続けています。

だから麹屋も眠れません。

温度を見守り、

香りを感じ、

空気を送り、

麹菌が一番元気に育つ環境を整える。

その積み重ねが、味噌や甘酒、日本酒、醤油など、日本の発酵文化を支える麹になっていくのです。

次回予告

麹の世界 第5話

「麹菌さん、変身中! ~白い花が咲く3日間~」

種付けから約3日。

お米は少しずつ白い衣をまとい、ふわふわの麹へと変わっていきます。

その間、お米の中ではどんな変化が起きているのでしょうか。

次回は、麹菌が菌糸を伸ばし、お米を麹へと育てていく神秘の3日間を、米の花ちゃんと一緒にのぞいてみましょう。

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