麹とは何者なのか ~発酵を支える、小さな菌の大きな物語~

麹の世界 第1章

麹とは何者なのか

~発酵を支える、小さな菌の大きな物語~

皆さんは「麹(こうじ)」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか。

味噌でしょうか。
甘酒でしょうか。
塩こうじや醤油こうじを思い浮かべる方も多いかもしれません。

でも実は、多くの方が毎日のように口にしている発酵食品のほとんどは、一つの小さな菌から始まっています。

その菌こそが「麹菌」です。

私は35年間麹屋として麹づくりに携わってきました。

毎日、蒸したお米に麹菌をまき、温度や湿度を調整しながら、まるで子どもを育てるように麹を育ててきました。

今回は、その麹菌が一体どんな存在なのか、一緒に見ていきましょう。


麹は食べ物ではない

意外に思われるかもしれませんが、麹は「お米」ではありません。

もちろん見た目はお米ですが、本当の正体は、

蒸したお米の上で麹菌が元気よく育ったもの

なのです。

白くふわっとした部分は、お米そのものではなく、麹菌が伸ばした菌糸です。

つまり、お米は麹菌の「住み家」であり、「栄養源」でもあります。

麹菌は、お米の表面だけでなく内部にも菌糸を伸ばしながら成長し、さまざまな酵素を作り出していきます。

この酵素こそ、日本の発酵文化を支える主役なのです。


麹菌は「働き者」の菌

麹菌には、自分で食べ物を作る力はありません。

そこで、お米のでんぷんやたんぱく質を分解できる酵素をたくさん作ります。

例えば、

  • でんぷんを甘みに変える酵素

  • たんぱく質をうま味に変える酵素

  • 脂質を分解する酵素

など、実に多くの酵素を作り続けます。

つまり麹菌は、

「自分で食べるために酵素を作る菌」

なのですが、その酵素を人間が上手に利用することで、

味噌になり、
醤油になり、
甘酒になり、
日本酒になり、
みりんになり、
酢へとつながっていくのです。

私たちは昔から、この麹菌の働きを借りて、美味しさを生み出してきました。


日本だけが育ててきた特別な菌

世界にはたくさんの発酵食品があります。

パンには酵母。

ヨーグルトには乳酸菌。

チーズにはカビ。

納豆には納豆菌。

それぞれ違う微生物が活躍しています。

その中でも、日本の発酵文化を代表する存在が麹菌です。

味噌、醤油、日本酒、みりん、甘酒…。

これほど多くの食品に同じ菌が利用されている国は、世界でも珍しいと言われています。

日本人は千年以上もの間、この麹菌と共に暮らし、育て、食文化を築いてきました。

だから麹菌は、日本の「国菌」と呼ばれるほど大切な存在なのです。


麹は毎日違う顔を見せる

35年間麹を育ててきて、私が今でも感じることがあります。

それは、

「麹は生き物だ」

ということです。

同じお米。

同じ種麹。

同じ作業。

それでも、その日の気温や湿度、お米の状態によって麹の表情は少しずつ変わります。

温度が少し高ければ元気よく育ち、

乾燥しすぎれば成長がゆっくりになります。

だから私たち麹屋は、温度計だけを見ているわけではありません。

香りを感じ、

色を見て、

手で触れ、

麹の声を聞くような気持ちで毎日向き合っています。

機械では測れない感覚も、長年の経験の中で少しずつ身についてきました。


小さな菌が日本の食文化を支えている

目にはほとんど見えない麹菌。

しかし、その小さな菌は、日本の食卓を何百年にもわたって支えてきました。

もし麹菌が存在しなかったら、

味噌も、

醤油も、

日本酒も、

みりんも、

甘酒も、

今とはまったく違うものになっていたでしょう。

それほど麹菌は、日本人の暮らしに欠かせない存在なのです。


次回予告

今回ご紹介した麹菌は、実は自然界のどこにでもいる菌ではありません。

では、この大切な麹菌は、一体どこからやって来るのでしょうか。

次回は、

「麹菌はどこから来るの? ― 種麹屋さんという知られざる職人たち ―」

をテーマに、日本の発酵文化を陰で支える「種麹屋さん」の世界をご紹介します。

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